
【設計者必見】ヒューズ選定の基本:定格電流と溶断特性の正しい決定方法
ヒューズは単なる安全部品ではありません。機器の**信頼性**と**長寿命**を左右する重要なキーコンポーネントです。
設計段階で誤った選定をすると、不必要な溶断による誤作動や、保護が間に合わず機器を損傷させる重大な事故につながります。
本コラムでは、多くの設計者が直面するヒューズ選定の最初の壁、【ヒューズの「定格電流」と「溶断特性(I²t値)」】を決定するための重要なポイントを解説します。
★ヒューズ選定の詳細手順については、【<初めにご覧ください>ヒューズ選定の流れ】をご参照ください
1. 定格電流の決定:マージン(ディレーティング)を適切に取る
ヒューズの定格電流は、回路の【常時流れる電流(実効値電流)=定常電流】に基づいて決定されます。
ここで最も重要なのは、「ディレーティング(電流低減)」の考え方です。
💡 基本ルール:
ヒューズは、定常電流の100%で動作し続けると、発熱により寿命が極端に短くなります。
一般的な温度環境下(弊社では20℃)では、ヒューズの定格電流が【定常電流の1.4倍から2倍】になるように選定マージンを設ける必要があります。
回路設計に基づき、ヒューズが保護するラインに流れる定常電流(Irms) を正確に測定または計算します。
ステップ②: ディレーティングの適用:
ヒューズ定格 > 定常電流 ÷ A ÷ B ÷ C
A :定常ディレーティング係数
B:温度ディレーティング係数(標準20℃以外での動作温度による補正係数)
C: その他のディレーティング係数(例: パルス負荷、多連取付など)
特に【周囲温度が 20℃より高い場合】(例:85℃動作環境)、ヒューズの電流容量は低下するため
温度ディレーティング係数は小さくなり、結果としてより大きな定格電流のヒューズを選ぶ必要があります。
2. 溶断特性(I²t値)の決定:機器保護の重要点
I²t(ジュール積分)値は、ヒューズが溶断するまでに流れる「熱エネルギーの指標」であり、
「どのくらい速く、どのくらいの過負荷で溶断するか」を示すヒューズの応答特性です。
2-1. 突入電流(Inrush Current)への対応
電源投入時やコンデンサ充電時に発生する短時間の「突入電流」は、正常な電流ですが、
ヒューズにとっては負荷となります。
ヒューズが誤って溶断しないよう、以下の関係を満たす必要があります。
- ヒューズの定格I²t値(不溶断側のI²t) > 回路の突入I²t値÷ラッシュ耐量係数※ ※ラッシュ耐量係数:機器の生涯寿命中の突入電流でヒューズが溶断しないためのマージン
よって、回路の突入電流波形を測定し、そのI²t値を正確に算出しなければなりません。
突入電流が大きく、継続時間が長い場合は、【タイムラグ型(スローブロー型)】のヒューズを選定する必要があります。
★突入電流からのヒューズ選定の詳細手順については、【突入電流のある回路の保護】をご参照ください
2-2. 保護対象部品の耐I²t値との比較
ヒューズの本来の役割は、【保護対象部品(例:半導体、PCBパターン)】が損傷する前に溶断することです。
そのためには、以下の関係を満たす必要があります。
- ヒューズの溶断I²t値 < 保護対象部品の耐I²t値
保護対象部品のカタログに記載されている【耐I²t値(損傷曲線)】を確認し、それよりも十分小さなI²t値を持つヒューズを選定することで、過電流発生時に部品が破壊される前にヒューズが回路を遮断できます。
★突入電流からのヒューズ選定の詳細手順については、【保護対象とヒューズの関係性】をご参照ください
3. 大東通信機の選定サポート
適切なヒューズ選定には、常時電流だけでなく、周囲温度、パルス負荷、そして保護対象部品の特性など、多くの要素を考慮する必要があります。
特に高い信頼性が求められる装置・機器においては、選定ミスが許されません。
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